~初パーティー編(3)~ 狂騒の中で
プロフィールシートを書き終えてすぐ、係員によるパーティーの説明が始まった。
気付くと席の大部分が埋まっていた。
斜め向かいの17番の子もまた可愛らしい感じの子で、
タイプは違うが、向かいの18番の美人に負けない程の容姿だ。
むしろ一般的にはこちらのほうが人気かもしれない。
係員の一言一句に笑顔でうんうん頷いていて、たぶんこういう子が好きな男は多いだろう。
18番は相変わらず無表情で脚を組んだまま、係員のほうを見るでもなく退屈そうにしていた。
一通りの説明が終わり、
「それでは正面の方とプロフィールシートを交換して会話を開始して下さい」
の号令の下に、一斉に全員が動く。
ある意味すごい光景だ。
機械的な一声で、60人もの男女が一糸乱れず一斉にお見合いを始めるのだ。
まるで宗教か、軍隊だ。
そのような統率の中でしか異性との出会いを見出せない男女が、
今ここに一同に集まって必死に相手を見定めている。
どう考えても不自然極まりないのだが、それが婚活というものなのだろう。
「よろしくお願いします」
満面の笑みで向かいの美人にプロフィールシートを渡す。
「あ、よろしくお願いします」
18番の声は、さっきまでのクールで退屈そうな姿とは少しイメージの違う、細くて柔らかい感じだった。
受け取ったシートを見ると、30歳。もっと若い感じに見えたので、少し意外。
18番はプロフィールシートに「人見知り」と書いていて、
パーティーには何度か来たことはあるけど、人見知りなのでまだ慣れないとのことだった。
偶然、俺も同じくシートに人見知りと書いていたので、
人見知りだとこういう場は緊張して大変ですよね~
という人見知りトークをしたが、些細なことでも共通点があるのはすごく大事だ。親近感が湧く。
あまり人には信じてもらえないが、
俺は超人見知りだ。
超人・見知りではない。超人に知り合いはいない。
超・人見知りなのだ。
慣れるとよく喋るし、同年代の一般男性と比べると友人も圧倒的に多いほうだろう。
ただし、初対面は本気でダメだ。
もともと上手く喋るのが得意なほうではないので、
自分が喋るとなると、何を話していいのかが全くわからない。
聞き上手とよく言われるタイプなので、よく喋る人となら初対面でもある程度なんとかなるが、
口数が少ない人とだと完全にアウトなのだ。
そんな俺なので、パーティーでの初めての会話は緊張でいっぱいだったものの、
18番は最初のイメージと違い物腰の柔らかいタイプで、
どんな話にもきちんと答えて会話のキャッチボールのしやすい子だったので、
少しばかり緊張をほぐすことができた。
何を話したかはほとんど覚えていないが、
軽くはにかんだ時に見える八重歯がとても可愛くて、
黙っている時よりも、更にずっと好みのタイプだったのが印象的だった。
「それでは、プロフィールシートを戻していただいて、男性は1つ大きい番号の席へ移動お願いします」
係員の号令が俺を現実へと引き戻す。
「ありがとうございました」
笑顔で18番と挨拶を交わし、1つ右の席へと移動する。
少しほぐれた緊張はリセットされて、
またもや新しい緊張の中での会話がやって来るのだ。
だが、そのことに対して特別な感情はなかった。
この場ではそれが自然なことなのだから。